2005年4月、当社は社名を「市浦ハウジング&プランニング」と改めた。創設以来一貫して受け継いできた「ハウジングを通じて社会に貢献する」という当社の使命を再確認し、内外に向けてより鮮明にするねらいがあった。

08年内田勝巳が社長に就任し、佐藤は会長となる。

06年6月に住生活基本法が公布・施行された。戦後60年を経て、初めて住宅・住生活に関する「基本法」が制定されたことによって、わが国の住宅政策も新たな段階を迎えた。90年代以降の住宅・都市政策の転換や21世紀に入っての「構造改革」を受けて、公共住宅の直接供給は大幅に縮小されることとなった。「官から民へ」の転換が要請され、社会資本整備の分野における公民連携事業(PPP:Public Private Partnership)が本格化してきた。公共住宅分野においても民間資金等活用事業(PFI:Private Financial Initiatives)をはじめとする民間活用型プロジェクトが各地で展開される時代となった。当社は00年代初頭からこうした時代の変化に合わせて、従来の公共セクターを中心とするハウジング・都市開発プロジェクトに加えて、新たな分野への進出を図ってきた。とくに、永年にわたって公共住宅に取り組んできた経験、実績を活かしつつ、公共住宅分野における公民連携事業に取り組むことを主要な方針に掲げてきた。

PPP・PFI型プロジェクト

沼津市(PFI)市営自由ヶ丘団地整備事業(06-11年)は、当社で最初のPFIプロジェクトとなった。引き続き07年には、東京都目黒区青葉台1丁目アパート建替事業、中野区中野本町4丁目住宅整備事業、09年には目黒区清水町アパート建替事業、11年には(仮称)新宿区弁天町コーポラス整備事業の4つの事業者公募プロジェクト(いずれも首都圏不燃建築公社と協同)に応募し、事業者選定を受けている。06年10月には、熊本市がわが国で初めて実施した第二種市街地再開発事業建設業務代行者募集提案競技(熊本駅前東A地区:くまもと森都心)に、事業グループ(ABILITY 11)の設計担当社として参加し事業者選定を受けた。さらに大阪府営吹田藤白台住宅(09年)、同堺南長尾住宅(09年)、西宮市営甲子園九番町団地1・2期(09年、11年)、同竹見台住宅(10年)、静岡県営東部団地(11年)の民活型建替事業についても公募型プロポーザルに参加し、いずれも共同事業者として選定された。これらのプロジェクトにおいて、当社がこれまでに蓄積してきた都市設計、住宅地設計の提案力、技術力が遺憾なく発揮され、また審査過程においても高い評価を受けている。

中国プロジェクトの展開

00年代初頭から、当社は公民連携プロジェクトとともに海外プロジェクト(主として中国)への進出にも取り組んできた。中国での業務展開に対応するため、04年に上海連絡事務所、06年に北京連絡事務所を開設した。これまでに、上海、北京、天津、瀋陽、唐山、煙台、青島、武漢、無錫、寧波、鎮江、合肥など、各地の住宅・都市開発プロジェクトに参画している。

上海市郊外の田園都市鳳凰城(99-01年、上海ハウス)は、その最も初期のもので、中国で権威のある「全国人居建築計画方案コンペ総合大賞」を、同じ上海市内の鹿鳴苑(05-07年、上海ハウス)は、「上海市優秀住宅銀賞」を受賞した。北京市で行ったスケルトン・インフィル方式の共同住宅設計プロジェクト、北京合金団地(08-10年、雅世集団)も全国建築計画設計賞の金賞をはじめ多くの賞を受賞した。このほか上海市では、旗忠森林体育城住宅都市計画設計国際コンペ(04年)、浦江鎮基地住宅都市計画設計国際コンペ(04年)、天津市では大寺新家園居住区計画設計国際コンペ(07年)に参加し、いずれも最優秀作品に選ばれている。

住宅団地再生の取り組み

住宅団地再生手法の検討も引き続き当社における重要なテーマとなっている。05年からは、国土交通省、都市再生機構、建築研究開発コンソーシアムの共同研究既存共同住宅団地の再生に関する総合検討調査(05-08年)に参画し、計画手法、事業手法、技術開発等の幅広い研究を行っている。都市再生機構の賃貸住宅に関しては、昭和40年代に建設された大量のストックの「再生・再編」のあり方が新たな検討課題として浮上している。当社は昭和40年代のモデル団地における新たな団地再生手法検討調査(06年-)、幸町団地ストック再生・活用調査(06年-)、花畑団地街づくり計画(08-10年)、草加松原団地街づくり計画(09年-)、高根台団地再生・活用調査(09年-)、千葉複合団地再生検討(11年)等を通じて、これらの問題に関する継続的取り組みをすすめている。

コンフォール草加松原

居住者組織によるまちの運営・管理

21世紀を迎えて、住宅・都市計画分野の重要なテーマとして、「エリアマネジメント」が浮上してきた。中心市街地等において、地区の魅力や活力を維持し続けるために、これまでの「都市づくり」から「都市をつくり、育てる」視点への転換が不可欠となってきた。郊外住宅地においても、地域の衰退や環境の悪化を防止し、資産価値を維持していくために、地域が主体となった取り組みが必要とされている。当社は、CTM(コミュニティべースド・タウンマネジメント)に関する調査(02-04年、国土交通省)、エリアマネジメントの推進に関する調査(07年、国土交通省)等に取り組み、とくに居住者組織による居住環境の維持・向上の方策に関して、継続的な取り組みをすすめている。

社会資産建築のプロトタイプ計画案

住生活基本計画

06年の住生活基本法に基づき、「住生活基本計画(全国計画)」が策定され「市場重視」「ストック重視」「地方分権」の方向が明示された。これに基づき住宅関連制度の見直しや制度創設が行われている。
当社は「住生活基本計画(全国計画)」策定に関与し、千葉、埼玉、京都、兵庫、山口、長崎、鹿児島等の県計画策定作業に取り組んできた。11年からは「住生活基本計画(全国計画)」の改訂作業に関わっている。また、これらの方向付けに基づく政策検討作業の一環としてリフォーム関連業務、総合的リノベーション、耐震改修・省エネ改修等の基礎調査、住宅履歴情報、中古流通関連調査等の業務を受注している。

住宅の長寿命化検討

わが国の住宅の寿命が先進国のなかでも際だって短く、住宅の長寿命化への取り組みが必要であることはかねてより指摘されてきた。06年の住生活基本法の制定、住生活基本計画の策定を期に、新たな取り組みが開始されることとなった。超長期住宅(200年住宅)への取り組みである。08年には「長期優良住宅の普及の促進に関する法律案」が国会に提出され、「長期優良住宅先導的モデル事業」が創設された。当社は、国土交通省の設置した長期優良住宅検討委員会(07-08年)への協力等を通じて、長期優良住宅ガイドラインの策定等の検討に取り組み、その後も様々な施策づくりに協力している。

建築基準法関連調査

05年に発覚した耐震偽装事件に端を発する建築基準法関連やマンション関連の調査も受注している。建築士制度の改正にかかる基礎調査、建築基本法を見据えた検討作業から建築基準法の運用状況や建築確認、定期報告、建築士事務所の実態、瑕疵担保基準等、設計・建築業務の体制や仕組みに踏み込んだ基礎検討に関わっている。

高齢者対応施策

高齢者関連事業については、09年、11年の「高齢者住まい法」の改正を機に大きく転換しつつある。当社は「高齢者安定確保計画」の受注や「サービス付き高齢者向け住宅事業」制度の検討等に関わってきた。10年以降「高齢者居住安定化推進事業」や「サービス付き高齢者向け住宅整備事業」(さつき)の補助金交付・審査事業者の事務業務を受注し、新たな業務領域となった。あわせて、これらの「サービス付き高齢者向け住宅」の安定的普及に向けてのフォローアップ調査や事例調査、評価手法等の関連調査を行い、都市再生機構の「Aging in DANCHI」プロジェクトにも協力している。

東日本大震災復興

2011年3月11日、東日本大震災がわが国を襲った。当社は、協力事務所と協同して岩手県野田村・普代村における市街地復興パターン概略検討および同詳細検討を実施した。続けて同じく国土交通省の岩手県北部等における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討、官民連携による地域特性を踏まえた災害公営住宅等の整備に係る検討、防災・危機管理および地域活性化をテーマとした災害公営住宅の検討、応急仮設住宅に係る研究等を行った。

また、「官民連携手法による災害公営住宅の整備」として災害公営住宅の買取り事業の進め方や地域型復興住宅の生産体制の検討、これに続く生産者グループ支援と災害公営住宅の指定管理等の管理体制の在り方等を検討しガイドラインを作成した。

これらに基づき、岩手県田野畑村、大槌町での災害公営住宅の買取り事業や、岩手県宮古市での敷地提案型買取り災害公営住宅事業におけるスキーム検討から実施の支援までを行った。その後も岩手県大槌町、山田町、釜石市、陸前高田市、宮城県女川町等における災害公営住宅の基本計画・基本設計に取り組み、これらは順次竣工し入居が開始されている。

東日本大震災やこのたびの熊本地震は、わが国が直面する都市・住宅問題の深刻さを明らかにしました。人口減少、少子・高齢化、地場産業の衰退、地域コミュニティの弱体化、基幹インフラの老朽化、防災対応力の不足、エネルギー・環境対策の脆弱性等です。地域の医療・福祉体制、公共交通基盤、公的財政が抱える問題も大きいと言えます。当社は「人間居住の向上」をテーマに培ってきた専門力、総合力を活かして、今後ともかかる難題に取組み、社会に貢献していく所存です。

野田村復興計画(全体計画図)
宮城県女川町災害公営住宅内覧会

住生活基本法後の住宅政策の取り組み

住生活基本法に基づいて住宅政策の市場化が進められたが、その後、シェアハウスや違法貸しルーム、貧困ビジネスなども話題となり、居住格差の広がりと共に新しいセーフティネット方策の検討も始まった。人口減少が現実のものとなり、空き家問題が住宅政策の最重要課題となり、国・地方公共団体の各種調査が進められ、これらの調査、検討に協力している。
ストック活用等への制度的対応│老朽化したストックの活用に向けて、公共住宅の長期活用や建築規制の見直し、改修技術支援、改修マネジメント、分譲マンション建て替え支援など課題が山積し、そのコンサルとしても協力している。09年にスタートした長期優良住宅の制度設計や普及、これに関連して住宅履歴情報システムの活用や普及の各趣調査に協力している。

ニュータウン再生・団地再生、地方創生事業の展開

少子高齢、人口減少時代に入り、NT、団地、地方の再生事業がまちづくりの最重要課題である。福祉政策が地域包括ケアシステムを志向する中、当社は、計画・建築・事業技術総力を上げて各領域が協働して取り組んでいる。NT、団地において福祉や生活機能の複合再編に取り組んでいる。特に公共住宅団地は、 PPP・PFI事業による建て替え等における事業費の低減や余剰地活用、民間活用による創意工夫や活力の導入等の再生事業に事業企画から事業実施、設計監理との各段階に協力し事業支援を行っている。また、地方都市の再生に向けては、CCRCのガイドとなる「生涯活躍のまち」構想などの包括的・先導的研究や事業に取り組み、実践的事業展開にも協力している。

当社は「人間居住の向上」をテーマに培ってきた専門力、総合力を活かして、かかる難題に取組み、今後とも社会に貢献していく所存である。
16年に川崎直宏が社長に就任し、内田は会長となる。